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【弁護士向け】パワハラやハラスメントの調査、ヒアリングで失敗しないためには?

パワハラ(ハラスメント)防止法とは

大企業については令和2年6月1日から、中小企業については令和4年4月1日より、いわゆる「パワハラ防止法」の施行が開始されました。この記事が公開されている時点では、企業規模や業種に関わらず、全ての企業が、この法律の適用を受けることとなります。

正式名称は、「労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律」というもので、「労働施策総合推進法」などと略されます(以下この記事でも、「労働施策総合推進法」と呼びます。)。
また、労働施策総合推進法の改正を受け、会社が具体的に行うべき措置等を定めた指針も新たに定められました。この指針の正式な名称は、「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針」です(以下この記事では便宜上、「パワハラ指針」と呼びます。)。

労働施策総合推進法は、今回新たに制定された法律ではなく、昭和41年に制定された法律で、パワーハラスメントの防止に関する事項だけでなく、様々な事項が定められています。同法の第1条に定められている目的は、以下の通りです。

(目的)
第一条 この法律は、国が、少子高齢化による人口構造の変化等の経済社会情勢の変化に対応して、労働に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働市場の機能が適切に発揮され、労働者の多様な事情に応じた雇用の安定及び職業生活の充実並びに労働生産性の向上を促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、経済及び社会の発展並びに完全雇用の達成に資することを目的とする。
2 この法律の運用に当たっては、労働者の職業選択の自由及び事業主の雇用の管理についての自主性を尊重しなければならず、また、職業能力の開発及び向上を図り、職業を通じて自立しようとする労働者の意欲を高め、かつ、労働者の職業を安定させるための事業主の努力を助長するように努めなければならない。

出典:e-Gov法令検索『労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律』

今回の法改正は、パワーハラスメントが大きな社会問題となっている現状を踏まえ、パワーハラスメント防止を国の施策として位置付け、企業に対し、具体的な対応策等を義務付けることにより、パワーハラスメント防止を実現し、もって労働者の働きやすい職場環境の整備を実現することを目標として行われたものです。

ハラスメントに関わるパワハラ防止法の改正について

ざっくりとした法改正の概要としては、以下の3点になります。

①パワハラに関する定義付がなされた
②企業が講ずべき措置が定められた
③パワハラに関する相談を行ったこと等を理由とする不利益取扱を禁止する旨が定められた

①については、法改正がなされる前から、事実上、「パワーハラスメントとは何か」という定義付がされておりましたが、今回の法改正で、パワーハラスメントの定義が、法律上明確に定められました。
具体的には、「㋐職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、㋑業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、㋒その雇用する労働者の就業環境が害される」行為が、パワーハラスメントとして定義されています(労働施策総合推進法第30条の2第1項)。なお、この定義自体は、法改正の前後で大きく異なるものではありません。そのため、これまではパワーハラスメントに当たらなかった行為が、今回の法改正で、新たにパワーハラスメントに該当するようになる(その逆もしかり)とか、そういった事態は生じないものと考えております

②については、次章にて詳しくお話させていただきます。

③については、「事業主は、労働者が前項の相談を行なったこと又は事業主による当該相談への対応に協力した際に事実を述べたことを理由として、当該労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならない。」(労働施策総合推進法第30条の2第2項)という条項が新たに設けられております。

労働施策総合推進法に違反した場合の罰則は定められておりませんが、厚生労働大臣から助言・指導・勧告を受ける可能性があり(同法第33条第1項)、勧告に従わなかった場合には、企業名が公表される可能性があります(同条第2項)。

なお、上記は「パワーハラスメント」の防止に関する法改正ですが、この法改正と同じタイミングで、セクシャルハラスメント、マタニティハラスメントの防止に関する法改正(男女雇用機会均等法/育児・介護休業法の改正)も行われております。

パワハラ防止法改正によって企業が講ずべき措置

パワハラが発生する前の対応

先に見た通り、今回の法改正で、パワーハラスメント防止に関し、「企業が講ずべき措置」が定められることとなりました。労働施策総合推進法及びパワハラ指針を踏まえると、
①事業主の方針等を明確化し、それを周知・啓発すること
②相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備すること
③パワーハラスメントが発生した場合、事後的に、迅速かつ適切な対応を行うこと
が、企業が講ずべき措置として求められています。

①については、㋐パワーハラスメント防止に関する社内規程等を作成し、労働者に周知するとともに、㋑研修・講習を行う等、パワーハラスメントに関する啓発活動を行うことが必要となります。
㋐は、就業規則内に条項を設けるだけでなく、社内報にて周知を行うことや、別途ハラスメントに関する防止規程を定めることでも足りますが、パワーハラスメントの定義・内容や、パワーハラスメントを行ってはならないこと、行為者に対して厳正に対処する等の会社の方針を定める必要があります。

②については、パワーハラスメントに関する相談窓口を予め定めて、労働者に周知することが必要となります。窓口を設けていないだけで、法律違反となってしまうので、この記事を読んでいる企業様で、相談窓口を設置していない企業様は注意が必要です。

③については、㋐事実関係を迅速かつ正確に確認(ヒアリング)し、㋑を踏まえた適正な対処(事実認定・法的評価・具体的処分)を行うとともに、㋒再発防止のための措置(研修実施等)を行う必要があります。

パワハラが発生した後の対応

先に見た通り、企業が講ずべき措置の一つとして、パワーハラスメントが発生した場合、事後的に、迅速かつ適切な対応を行う、というものがあります。
ここからは、ハラスメントの調査や事後対応に焦点を当ててお話していきます。

パワハラやハラスメント調査の概要

当事務所でも、顧問先企業様を含め、パワーハラスメント調査に関する相談・依頼を多く受けておりますが、「パワーハラスメント調査を含めた事後対応は、専門家の関与が必要不可欠」と考えております。

パワーハラスメントの調査・ヒアリングは非常に難しく、弁護士でも悩むことが良くあります。裁判例等を見ても、弁護士等の専門家が第三者委員として関与し、ハラスメント調査・事実認定を行ったものの、その調査・事実認定に問題があると判断されているケースもあれば、第一審・第二審とで、裁判所の判断自体が180度変わってしまうケースもあります。

ハラスメント案件の事後対応は、(1)ヒアリング→(2)事実認定→(3)法的評価→(4)1~3を踏まえた対応・処分(懲戒処分等)という流れで進みます。しかし、この(1)~(4)の場面について細かく見ると、それぞれ、以下のような難しさがあります。

①相談者、行為者が感情的になることも多く、必要な事実関係や供述を聞き出すことが難しい(ヒアリング自体の困難さ)
②明確な証拠がないことも多く、事実認定が難しい(事実認定の困難さ)
③線引きが曖昧で、パワーハラスメントと判断できるかの評価が難しい(法的評価の困難さ)
④行為者に対する具体的な対応・処分が難しい(懲戒処分特有の困難さ)

ハラスメント案件に適切に対応するためには、上記①~④のプロセスを、いずれも適切に行う必要があります。①についてはある程度の経験でカバーできるとしても、②~④は法的見地が必要不可欠です。特に、②③は裁判官的な目線も必要になります。

このように、一定の経験・スキルが要求されることに加え、法的見地が必要であることから、「パワーハラスメント調査を含めた事後対応は、専門家の関与が必要不可欠」と考えております。

パワハラやハラスメントのヒアリングの2類型

ところで、ハラスメントの「調査」という観点で見ると、以下の2つの場面があります。
①実際にハラスメントの問題が発生し、そのハラスメントの問題の事後対応として調査を行う場面
②個別のハラスメントの問題は発生していないものの、会社の実態を把握するために調査を行う場面

この記事でお話するのは、あくまでも①のお話ですが、顧問先企業様や、外部相談窓口をご依頼いただいている企業様から、②のような調査依頼を受けることもあります。

①のヒアリングの注意点はこの後お話しますが、②のヒアリングの方が意外と難しく、また大変だったりもします。企業規模によっては、最初から従業員全員に個別にヒアリングを行うのは困難なこともありますので、まずは匿名のアンケートを実施し、回答内容を踏まえて個別のヒアリングを行うこともあります(匿名で回答を受け付けるものの、部署だけは記載してもらい、問題のありそうな部署のみ個別ヒアリングを実施することもあります)。

パワハラやハラスメント調査のヒアリングで失敗しないコツ

ここからは、ハラスメントの「調査対応」にポイントを絞ってお話させていただきます。
前提として、こういった調査案件を多く扱う中で思うことは、「調査の結果よりも過程が大事」ということです。
十分な調査をしたものの、明確な証拠がない等、被害申告者の主張する事実自体が確認できず、ハラスメントと認定できないケースも多くあります。これは性質上、仕方のないことではありますが、このような場合でも、「調査の過程」に問題があれば、被害申告者の納得も得られませんし、何より「会社として必要な事後対応を行った」とは到底言えません。そのため、結果は別にしても、会社として必要十分な調査を行ったかという過程は非常に重要です。

被害申告者へのヒアリングを行う際の注意点

まず、被害申告者から、ハラスメントの被害申告を受け付けた場面を想定します。この場面で私は、特に以下の①~⑥を注意しています。

①被害申告者から話を聞く場を早急に設ける
②決めつけを絶対にしない
③裏付けとなる証拠は早期に提出してもらう
④「事実」と「評価」を分け、「事実」のみを聞く
⑤被害申告者の意向(調査意向・その他の意向)を必ず聞く
⑥場合によっては一時的な対応(勤務場所の変更等)も検討する

特に⑤の「被害申告者の意向」は極めて重要です。この意向により、今後の調査の進め方が大きく変わってきます。
被害申告者の意向を十分に確認しなかったり、意向に反する調査等を行ったりすると、「行為者VS被害申告者」の対立構造から、「会社VS被害申告者」の対立構造になってしまうこともあります。
現に、ハラスメントの事実は認定できないものの、使用者の行ったハラスメント調査の過程に問題がある(被害申告者の意向に反した調査を行った・プライバシーを侵害する態様での調査を行った)として、使用者側に対し慰謝料の支払を命じた裁判例もあります(京丹後市事件/京都地判R3.5.27・労経速2462号16頁/使用者が「市」であることから国家賠償請求がなされた事案)。

行為者とされる人物へのヒアリングを行う際の注意点

次に、被害申告者からのヒアリングが終わった後に、行為者とされる人物にヒアリングを行う場面を想定します。この場面で私は、特に以下の①~⑥を注意しています。

①第三者との口裏合わせ等の危険性を可能な限り排斥する
②決めつけを絶対にしない
③被害者の主張や証拠に引っ張られ過ぎない
④行為者にも証拠提出を促す
⑤具体的処分(懲戒処分等)の話は極力しない
⑥被害申告者に報復等を行わないように伝える

第三者へのヒアリングを行う際の注意点

被害申告者・行為者とされる人物だけでなく、第三者にもヒアリングを行う場面を想定します。この場面で私は、特に以下の①~④を注意しています。

①被害申告者・行為者との関係性を意識する(供述の信用性の観点)
②必要な範囲でのみ事実を開示する/ヒアリングが行われたことを含め秘密厳守をお願いする
③証拠の有無を確認する
④第三者からも意向を確認する

ヒアリング全般の注意点

被害申告者、行為者、第三者と場面を分けて簡単に注意点を解説しましたが、全てに共通する注意点としては、「決めつけをしない」という点です。ハラスメントの事案で一番陥りがちなミスは、この「決めつけ」にあると考えています。
例えば、「被害申告者は元々被害妄想が強い人なので、話半分で聞いてしまった」というのも決めつけです。また、「行為者とされる人物は、元々問題社員であり、ハラスメントの噂もあったので、被害申告者の話をそのまま信じてハラスメントと判断した」というのも決めつけの一種です。このような決めつけがあると、必要な事実確認や調査が抜けてしまい、いわば「結論ありき」で判断がなされてしまうこともあるので、特に注意が必要です。

おわりに

以上、パワハラ防止法の改正点や、ハラスメントの事後対応、調査を行う際の注意点等につきお話させていただきました。
こちらの記事に関連して、パワハラ防止法の対策についてお話したセミナー動画や、ハラスメントの調査対応に焦点を当ててお話したセミナー動画も販売されておりますので、ご興味のある企業様・士業様は、ご視聴いただけますと幸いです。

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