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【税理士向け】役員退職金の計算方法|「不相当に高額」と言われないためには?

役員退職金は、中小企業の事業承継において大きなポイントとなる項目です。事業承継においては、この役員退職金によって会社としての資産を減らすことで、自社株評価を下げる対策が有効と言われています。 しかし金額によっては「不相当に高額」と否認されることもあります。適切な計算方法や根本的な考え方について解説していきます。

1.役員の退職の定義とは

役員給与の中でも、特に役員が退職したときに一時金として支払う、いわゆる退職一時金、退職慰労金等と呼ばれる「役員退職金」について解説します。
まず、役員を退職するというのはどういうことなのでしょうか。ここで言う役員とは、法人税法上の役員を言い、単に取締役を辞任しただけでは退職の事実があったとは言えないことも多くあります。一般的認識だけでなく、法人税法上の観点から見なければなりません。

2.「会社法上」並びに「法人税法上」の役員の退職とは

会社法によれば、株式会社と取締役との関係は、委任に関する規定に従うとされています。
ここにいう「委任に関する規定」とは、民法で規定されている委任に関する条文のことです。

会社法 第三百三十条
(株式会社と役員等との関係)
株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う。

出典:e-Gov法令検索『会社法』

民法 第六百五十一条
(委任の解除)
委任は、各当事者がいつでもその解除をすることができる。
2 前項の規定により委任の解除をした者は、次に掲げる場合には、相手方の損害を賠償しなければならない。ただし、やむを得ない事由があったときは、この限りでない。
一 相手方に不利な時期に委任を解除したとき。
二 委任者が受任者の利益(専ら報酬を得ることによるものを除く。)をも目的とする委任を解除したとき。

出典:e-Gov法令検索『民法』

辞任の意思表示は、通常は「辞任届」の形での書面によることになります。そして、辞任はその書面が会社に到達した日に効力が生じます(民法第97 条1項到達主義)。辞任と退職金の支給は全く別個の法律行為となります。

では、会社法上の正規の辞任手続が終われば、退職金支給による支給金額全額が損金算入できるかというと、そうではありません。
一般的に日本では同族会社における家族経営、関係者などで経営する同族経営が主流であり、会社法上の辞任手続を経ても実質的には会社経営に関わっていることも多くあることから、「実質的に退職する」という言葉が存在しています。
ここでは、会社法上役員を辞職したとする元役員が実質的に経営に従事するということが会社法上許されるのかというような疑問も生じてきますが、あくまでも税法上の、ということで割り切ります。

実質的に経営に従事することが法人税法上の役員の要件であり、この要件を充たす限りは会社法上の辞職手続きを経ても、また、元々会社法上の役員でなくても法人税法上の役員に該当する限りは、支給した退職金は損金に算入することができません。

逆に言えば、会社法上の役員に該当しても、実質的に経営に従事していなければ、分掌変更による役員退職という事実関係の認定もできるわけです。
このように、役員の退職といっても、税法が絡んでくる限り、そう簡単には収まらないということになります。

3.役員給与の一種である役員退職金

役員退職金は、役員給与の一種として法人税法第34 条に規定されています。役員退職給与は、支給する金額の多寡、退職の事実などを巡っての争いが絶えません。

しかし、退職に際してのその役員の会社への功労度合いは会社によって異なり、それを同業他社との比較基準や一定の功績割合の適用など一様に扱うことは、その役員による今までの会社に対しての行為自体を否定されるようであり、税が枠をはめて本当に良いものなのか、考えるべきところではないでしょうか。

4.損金不算入の規定

法人税法施行令70 条2号において、役員退職給与に関する損金不算入の規定が定められています。

この規定を見ると、損金不算入の考え方として、該当する役員の
①業務に従事した期間
②その退職の事情
③その内国法人と同種に照らし、その退職した役員に対する退職給与として相当であると認められる金額を超える場合におけるその超える部分の金額」
とされています。

このことからも分かるように、会社が退職する役員の退職給与の金額を独自で決めたとしても、損金算入になるかどうかは、法人税法施行令で定める基準を基にして判断することを要請されています。

施行令といえども、法律の委任を受けているため、当然にこの規定を基にして考える必要はあります。しかし、業種別として考えられているこの金額も、我々自身が同業他社の基準が分かるはずがありません。仮に他社に聞いたとしても、このような個人情報に関わるようなことを誰が教えてくれるのでしょうか。ですから、このような決まりは有名無実と考えていいでしょう。

5.功績倍率を使わなければならないのか

役員退職金の相場として扱われる「功績倍率法」と呼ばれる算定式。これには法的根拠はありません。法人税法基本通達9-2-27の3に記載が出ていますが、平成29年のこの通達において初めて言葉として公に出たものだと考えられます。法律に規定はないものの、過去の判決や裁決等において多用されており、実務でもある程度法的な位置付けはあるものと考えられます。

また、この通達で、功績倍率法の算定式も、「役員の退職の直前に支給した給与の額を基礎として、役員の法人の業務に従事した期間及び役員の職責に応じた倍率を乗ずる方法により支給する金額が算定される方法」と記載されています。

(退職直前の給与)×(勤務期間)×(職責に応じた倍率)

なお、役員の功績倍率の実際の倍率ですが、法律に定められているものではありません。今回は東京高裁で過去に示された判決内容を元に示しています。その倍率は以下の通りです。

社長  :3.0
専務  :2.4
常務  :2.2
平取締役:1.8
監査役 :1.6

この通達は、功績倍率法に基づいて計算され、支給する退職給与は、業績連動給与に該当しないとするものであり、通達の制定趣旨とは異なるものの、功績倍率方式という算定式が存在するということが明らかにされていることについて異論はないでしょう。

出典:e-Gov法令検索
『法人税法基本通達』

6.「不相当に高額(いわゆる過大退職金)」の考え方

内国法人が各事業年度において、退職した役員に対して支給した退職給与の額が、業務に従事した期間、退職の事情、内国法人と同種の事業を営み、事業規模が類似する法人の支給の状況等に照らし、退職給与として相当であると認められる金額を超える場合、超える部分の金額、いわゆる「不相当に高額な部分」が損金不算入の要件となります。

①当該役員のその内国法人の業務に従事した期間
②その退職の事情
③その内国法人と同種の事業を営む法人

ここに功績倍率等の定めはありません。功績倍率は、退職役員の功績などを把握できない裁判官や審判官などが算定の目安として作り上げられたものであり、法律には先ほどの3つの不算入要件しかありません。

役員退職金は、会社が、あるいは株主が決めるもので、決して税務署が決めるものではありません。税金を気にしすぎることなく、法律の内容を十分に理解し、退職者、会社、株主が納得する金額を支給したいものです。

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