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金庫株のメリット・デメリットとは?活用事例も解説

非上場会社の相続・事業承継対策として必ず挙がる「金庫株」。納税資金対策や少数株主からの買い取りに使うという漠然としたイメージはあるかもしれませんが、どう使うのかというと経験者の先生以外はなかなか想像がつきにくいのではないでしょうか。
本記事では金庫株のメリット・デメリットについて活用事例を交えながら解説します。

金庫株とは

金庫株とは、会社が市場へ発行した株式を、会社自らが株主から買取り、自社で所有している「自己株式」を指します。以前は一部の条件にしか適用できない規制がありましたが、2001年10月の商法改正により、その制限がなくなったことで活用の幅が広がりました。

金庫株のメリット

金庫株は、非上場会社では主に相続税の納税資金対策として利用されています。非上場会社ではオーナー社長の死去に伴う相続時に、金融資産を持たない相続人が、相続した自社株式を株式発行会社に譲渡することで会社から金銭を受け取り、その金銭を相続税の納税資金に充てる方法が一般的になりました。

後継者の納税資金対策

相続税の納税資金対策として、金庫株は非常にうまく機能します。金庫株を利用した事業承継における相続税の納税資金対策は、今では一般的となっており、相続税の納税のあるおおよそ半数の会社でこの手法が利用されています。
手順としてはまず相続人が相続により自社株式を取得し、これを会社に売却して会社が金庫株として取得することで相続人にその売却代金が手渡され、その金銭が相続人の相続税の納税資金になります。

株式所有の分散防止対策

実際に相続時に株式の分散防止策を行ったかどうかによって、その後の会社経営には雲泥の差が生まれます。
さらに会社が自社株式を金庫株とすることで、その株式の株主総会における議決権や会社に対する配当請求権が停止するため、形式上株式は存在するものの、実質的には株式を消却したのと同じ状態になることで、会社の経営の安定化に非常に役立ちます。

金庫株のデメリット

デメリットに関しては、上場会社に顕著に表れてきています。例えば上場会社では、金庫株を取得する旨を公表するだけで株価が急騰することが当たり前にようになっています。
まだ金庫株取得を実行していなくても、これから金庫株の取得を行うという発表により、株価を引き上げる効果があるわけです(株価に与える心理面でのアナウンスメント効果)。
なお非上場会社では、特にデメリットはありません。

金庫株は分配可能額の範囲内でしか取得できない

分配可能額を大雑把に理解するには、貸借対照表の純資産の部における株主資本から、資本金と法定準備金(会社法で定められた準備金で、資本準備金と利益準備金があります。)を差し引いたものとして理解するのがわかりやすいでしょう。
具体的には「その他資本剰余金」と「その他利益剰余金」の合計額になります。
さらに既に自己株式があれば、分配済みの金額ですので、これをマイナスすることになります。
結論的には、分配可能額は「その他資本剰余金」と「その他利益剰余金」の合計額(これを会社法の「条文上の剰余金」といいます)から自己株式を差し引いた額になります。

原則として他の株主に取得情報を公開する必要がある

金庫株を取得するには、原則として他の株主に株式の単価等の取得情報を公開する必要があります。

金庫株を活用する主なケース

金庫株は相続税の納税資金対策の他、自社株式の分散防止と少数株主を減らす対策、会社財産を利用した遺産分割対策、少数株主への利益還元対策、資金運用対策など、様々な対策に活用されています。

1.相続税の納税資金対策

相続人が自社株式を株式発行会社に譲渡して、会社がこれを金庫株とすれば、自社株式が換金化されて、会社への売却代金が相続税の納税資金となるだけでなく、会社にとっても相続に伴う株式の分散を防止することができます。

なお、相続時に会社が相続人から自社株式を買取ることで金庫株制度を利用する方法以外にも、オーナー社長が生前に自社株式を会社に譲渡することで、自社株式を一部換金化し、将来生じるだろう相続税の納税資金をオーナー個人の財産としてあらかじめ用意しておく方法もあります。この場合はみなし配当が生じるのですが、株価の引下げ対策を行うことでみなし配当を抑制し、これに伴う譲渡金額の減少分は株数で調整することで解決可能ですし、複数年に分けて行えばみなし配当の高税率が回避できます。

それでも多額のみなし配当が生じる場合には、オーナー社長が保有している財産のうち、含み損を持っている財産(ゴルフ会員権等を除く)を同時に売却し、みなし配当と財産の譲渡損との損益通算を行うことで、合法的に節税ができます。

実際にこの方法は経営者に好評を博しているのですが、それはオーナー社長が生前に多額の現金預金を手に入れる方法として、この方法が現実的・合理的であるからでしょう。実はオーナー社長も生前に億単位のお金を手にしてみたいのですが(豪遊すればすぐになくなるかもしれませんが)、役員退職金の利用以外はなかなか難しいのが現実です。

相続開始前の金庫株の適正な株価は、取得する側(株式発行会社)の法人税法上の時価と、売却する側(個人のオーナー株主)の所得税法上の時価によることになりますが、その時価は法人税と所得税で基本的にその評価方法が同じであり、かつ通常の相続税評価額よりも高いのが普通です(法人税基本通達9-1-14,所得税基本通達59-6による原則的評価額)。
個人のオーナー社長である株主から株式発行会社がこの高い評価額で当該会社の株式の一部を買取ることにより、残りの株式の一株当たり純資産を大幅に圧縮し、かつ生前にオーナー社長である株主へ、それまでの功労に報いるべく利益還元することができます。

2.自社株式の分散防止対策

金庫株を利用することで自社株式の分散を防止し、会社経営の障害となる少数株主を減らすことが出来ます。例えば度重なる相続により、自社株式が親類縁者にかなりの程度、分散しているケースがあります。いわゆる遠い親戚にまで自社株式が行き渡ってしまっている例であり、例えば戦前からある、地場の優良会社等においてこれが顕著です。
各株主の相続による株式の移転や、株式譲渡制限会社であっても、会社の承認を得ずに当事者間で行われた譲渡(これは会社に対しては無効ですが、当事者間では有効です。)を会社が把握できていないケースもあり、こうなるともう誰が真の株主かわからなくなります。なかには社長が会ったこともない株主も多数いて、こういった会社では一般的に株主間に派閥争いがあり、株主総会は常に荒れた状態で紛糾しがちです。
このため、株式の分散防止と同時に株式の集中が必要になります。その手段として、金庫株として少数株主から株式を買い取ることが考えられます。

3.会社財産を利用した遺産分割対策

金庫株を利用することで、通常であれば相続における遺産分割の対象とならない会社財産を、相続財産に組込むことが出来ます。これは相続人が相続により自社株式を取得した後、その株式を会社に売却する際に、現金預金以外のものを対価として受け取ることもできるためです。
当然のことながら相続人と会社との同意は必要となるのですが、会社財産の中で(現金預金以外に)相続人が欲しいものと、相続人が持つ自社株式とを交換することができるわけです。

4.少数株主への利益還元対策

金庫株は少数株主への利益還元対策としても利用できます。金庫株の取得金額と会社から支払われた配当金額の合計額を当期純利益で割った比率は「総配分性向(総還元性向)」と呼ばれ、株主への利益還元割合を表す比率であると考えられています。株主に金銭で報いる点では、会社による金庫株の買取りと配当金の支払いは共通しているためです。

中小企業でもある程度の規模があれば、少数株主といたずらに対立するのではなく少数株主との融和を図り、配当金の支払い以外にも金庫株の取得による株主への利益還元を行う事が、少数株主とのよい関係を構築するのに役立ちます。

5.資金運用対策

金庫株には様々な利用方法があるのですが、非常に効率の良い資金運用の一つと考えることもできます。超低金利時代である現在、定期預金の金利は基本的に0.002%の水準になってしまっています。その資金を金庫株の取得原資として利用すれば、金庫株については配当金を支払わなくてよいため、配当金の支払い軽減に役立つとともに、議決権の停止による経営の安定化が図れます。
つまり定期預金よりも金庫株取得の方がはるかに高金利・高効率な資金運用、つまりノーリスク・ハイリターンの資金運用と言え、さらに経営の安定化にとってプラスの効果があるのですから、金庫株は非常に有利な資金運用対策であるといえるでしょう。

金庫株を活用する際の注意点

金庫株を活用する際の注意点としては、相続時の利用以外では多額のみなし配当が生じることが多い点、適正な時価でない場合には贈与の問題が生じる点が挙げられます。

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