相続の知識

家屋(建物)の相続税評価額と計算方法|相続税対策も解説

不動産を相続した場合、その相続税評価額は土地と家屋(建物)それぞれに分けて算出することになっています。ここでは家屋(建物)の相続税評価額とその計算方法について解説していきます。
家屋(建物)と一口にいっても、そこにはいくつかのケースがあります。たとえば、最も多いのが亡くなった方(被相続人という)が住んでいたケースでしょう。しかしなかには、賃貸アパートを所有していたケースもあれば、第三者に貸していたケースも考えられます。相続税評価額の計算方法もそれぞれのケースによって異なってきます。
この記事では各ケースに関して解説をしていくことにしましょう。

建物の相続税評価額の計算方法

そもそも建物とは何でしょうか?
不動産登記規則第111条では次のように定義しています。

「建物は、屋根及び周壁又はこれらに類するものを有し、土地に定着した建造物であって、その目的とする用途に供し得る状態にあるものでなければならない」

 

これは「外気分断性」「定着性」「用途性」の三つの要件に集約することができます。

外気分断性……建物は外気から分断されている必要があるということです。具体的には雨風を防ぐことのできる屋根や壁(三方向以上)を備えていなければならないことになります。

定着性……土地にしっかりと固着しているかどうかということを意味します。基礎工事をして建てたものと考えていいでしょう。その意味では、ホームセンター等で購入した簡易物置をただ庭に設置しただけでは、建物とはいえないわけです。

用途性……居住・作業・保管・貯蔵など、それぞれの用途に供しうることが必要です。例えば庭に設置した物置でも、電気や水道が引いてありその中で居住できるようにしていた場合、家屋(建物)と判断される場合もあります。

以上の要件を満たしていた場合、家屋(建物)として相続税評価額を算出していくことになるわけですが、それに関しては次の三つのケースが考えられます。

● 被相続人が利用していた場合
● 賃貸アパートの場合
● 第三者に貸していた場合

それぞれの計算方法を見ていくことにしましょう。

被相続人が利用していた場合

「被相続人」とは亡くなった方、いわば故人になりますが、ここでは相続が発生する前にその家屋(建物)を所有していた人を指しています。被相続人がもともと住居として利用していたなど、多くはこのケースになると思いますが、この場合、相続税評価額は以下の計算式で算出できます。

【固定資産税評価額×1.0】

固定資産税評価額は市町村から毎年送られてくる「固定資産税課税明細書」に記載されています。明細書は自治体によって異なりますが、家屋の欄にある「価格」もしくは「評価額」の項目が「固定資産税評価額」です。
たとえば「20,000,000」と記載されていた場合、相続税評価額は次のようになります。

【20,000,000×1.0=20,000,000】

すなわち相続税評価額は「2,000万円」ということです。

賃貸アパートの場合

賃貸アパートの場合の計算式は次のようになります。

【固定資産税評価額×(1−借家権割合×賃貸割合)】

「借家権割合」とは借り手側が家屋を借りて使用する権利のことで、その割合は30%と定められています。また「賃貸割合」は貸している部分の床面積の割合です。この床面積が広いほど相続税評価額は下がることになります。

以下の条件を備えた賃貸アパートを例に算出してみましょう。

  • 固定資産税評価額:2億円
  • 部屋の床面積の合計:300㎡
  • 貸している部屋の床面積の合計:150㎡

この場合、賃貸割合は150㎡÷300㎡で50%(0.5)です。
したがって、上記の計算式に当てはめると以下のようになります。

【2億円×(1−0.3×0.5)=1億7,000万円】

相続税評価額は1億7,000万円です。

なお、被相続人の死亡時に空室だった場合、借家権割合の30%減は適用できないのでご注意ください。
ただし賃貸アパートの一部の部屋が一時的に空室であれば、その空室の床面積を賃貸割合に含めることができます。一時的な空室として認められるかどうかは下記要件を総合的に鑑みて判断します。

一時的な空室の判断基準

  • 各独立部分が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものか
  • 賃借人の退去後、すみやかに新たな賃借人の募集が行われたか
  • 空室の期間、ほかの用途に供されていないか
  • 空室の期間が課税時期の前後のたとえば1か月程度であるなど一時的な期間であったか
  • 課税時期後の賃貸が一時的なものではないか

上には「たとえば1ヵ月程度」という表現がありますが、それ以上の期間にわたって空室であっても「一時的な空室」と認められた場合もあります。

第三者に貸していた場合

第三者に家屋(建物)を貸していた場合の計算式は次に示すとおりです。

【固定資産税評価額×(1−借家権割合)】

この場合も借家権割合が30%であることに変わりはありません。
固定資産税評価額が2,000万円の建物を例にすると、以下のようになります。

【2,000万円×(1−0.3)=1,400万円】

相続税評価額は1,400万円です。

亡くなる前に増改築等した場合

被相続人が亡くなる前に家屋(建物)を増改築等した場合で、家屋(建物)の固定資産税評価額が改訂されていない場合は、固定資産税評価額にその分を加味する必要があります。その際の計算式は次に示すとおりです。

【増改築等前の家屋の固定資産税評価額+(増改築等費用−死亡日までの償却費)×70%】

この計算式にある「死亡日までの償却費」は次の式で算出します。

【増改築等費用×90%×経過年数÷耐用年数】

「経過年数」とは増改築等日から死亡日までの年数のことです。1年未満の端数は切り上げます。「耐用年数」は国の定める「減価償却資産の耐用年数等に関する省令」で計算します。

【参考】減価償却資産の耐用年数等に関する省令(e-Gov法令検索)

例を出して計算をしてみましょう。
被相続人が亡くなる11年前に木造の家屋を増改築等したとします。増改築等を行う前の家屋の固定資産税評価額は2,000万円です。増改築等にかかった費用は500万円でした。
木造の住居の場合、減価償却資産の耐用年数は22年ですから、死亡日までの償却費は次のように算出されます。

【500万円×90%×11年÷22年=225万円】

死亡日までの償却費となる225万円を【増改築等前の家屋の固定資産税評価額+(増改築等費用−死亡日までの償却費)×70%】に当てはめて計算します。

【2,000万円+(500万円ー225万円)×70%=2,192万5,000円】

したがって相続税評価額は2,192万5,000円ということになります。

建築中の建物の場合

家屋(建物)の建築中に被相続人が亡くなった場合でも、その家屋は相続税の対象となります。その際の相続税評価額の計算式は次に示すとおりです。

【費用原価の額×70%】

「費用原価の額」とは、亡くなった日までにかかった建築費のことを指します。

建物の相続税評価額を下げて節税する方法

家屋(建物)の相続税評価額を下げることで節税につなげる方法としては以下の二つがあります。

● 第三者に貸す
● 賃貸アパートの空室を減らす

それぞれの方法について解説します。

第三者に貸す

もし、使用していない家屋(建物)がある場合は第三者に貸すことを考えましょう。家屋(建物)を貸すことによって相続税評価額は30%引き下げることが可能です。
ただし、親族に対して無償で貸している場合はこの30%の軽減はできないので、ご注意ください。また、たとえ家賃を受け取っていたとしても、相場とかけ離れた低い金額の場合は減額が認められない可能性が大きくなります。

賃貸アパートの空室を減らす

賃貸アパートの空室を減らすことでも相続税評価額を引き下げることができます。たとえ空室があったとしても、それが一時的なものであれば賃貸割合に含んでもいいことになっています。
なお、一時的な空室の判断基準としては前述した通り次のようなものがあり、総合的に判断します。

  • 各室が課税時期前に継続的に賃貸されてきたものかどうか
  • 賃借人(部屋の借主)が退去した後、すぐに新たな賃借人の募集が行われたかどうか
  • 空室の期間、ほかの用途に使われていないかどうか
  • 空室の期間が課税時期の前後の1か月程度であるなど一時期的なものであったかどうか
  • 課税時期後の賃貸が一時的なものではないかどうか

相続税の計算方法

相続した不動産は土地と家屋(建物)に分け、それぞれに相続税評価額を算出する必要があります。建物に関しては上記で解説したとおりです。
土地に関しては「路線価方式」と「倍率方式」の二つの評価方法があります。

路線価とは「道路に面する土地1㎡あたりの評価額」のことを指します。この路線価に基づいて土地を評価する方法が路線価方式というわけです。なお、路線価は国税庁のホームページ「路線価図・評価倍率表」で確認することができます。

【参考】国税庁ホームページ『路線価図・評価倍率表』

路線価方式による土地の相続税評価額は次の計算式を用います。

【路線価×各種補正率×土地面積】

ここで例を出してみましょう(各種補正率には「奥行価格補正率」や「奥行長大補正率」などがありますが、ここでは詳細は割愛します)。
路線価が30万円、各種補正率が1.0、面積が200㎡の土地を相続したとします。すると、相続税評価額は以下のとおりの計算で6,000万円となります。

【30万円×1.0×200㎡=6,000万円】

路線価の計算については、下記の記事もご覧ください。

 

一方の「倍率方式」ですが、こちらは路線価が定められていない地域に関する土地の評価方式です。
倍率方式による土地の相続税評価額は次の計算式を用います。

【固定資産税評価額×倍率】

固定資産税評価額は市町村から毎年送られてくる「固定資産税課税明細書」に記載されている土地の価格のことです。倍率は路線価と同じように国税庁のホームページ「路線価図・評価倍率表」で確認することができます。

例を出してみましょう。固定資産税評価額が2,000万円で倍率が1.1の土地を相続したとします。この場合、相続税評価額は以下のとおりの計算で2,200万円となります。

【2,000万円×1.1=2,200万円】

相続税額は【(すべての相続財産額−基礎控除)×相続税率】で導き出します。
「すべての相続財産額」には、これまで説明してきたように建物(家屋)と土地それぞれに相続税評価額を計算したうえで、合算していきます。もちろん、建物(家屋)と土地以外にも現金や有価証券などもここに含まれます。
計算方法の詳細は下記の記事をご参照ください。

 

おわりに:対策をすれば相続税を大きく減らせる可能性がある

大切な家族の方が亡くなった時、相続が発生します。その多くのケースにおいて、不動産の相続が伴うといっていいでしょう。
この記事で解説をしたように、不動産を相続した場合の相続税評価額は家屋(建物)と土地それぞれに分けて算出することになっています。この記事では家屋(建物)をメインにその計算方法をお伝えしてきましたが、相続をした家屋(建物)のパターンによって計算方法が異なってくることがお分かりいただけたと思います。

不動産の相続には難解な点が多く、専門的な知識がなければ多大な時間と労力を割いてしまうことになります。また、専門知識がないために必要以上に相続税を支払ってしまうことにもなりかねません。不動産は高額ですから、相続税も多額になる傾向があります。
適正な相続税を支払うためには、専門知識が豊富な税理士の力を借りることが安心感につながります。また、税理士に相談をすると有利な節税対策のアドバイスを受けることもできます。
不動産を相続した場合は、ぜひ税理士に相談をすることをおすすめいたします。

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この記事を監修した⼈

税理士法人レガシィ代表社員税理士パートナー陽⽥賢⼀の画像

陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー

企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・

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武田 利之税理士法人レガシィ 社員税理士

相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。

<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表

<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表

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