みなし相続財産とは?その種類や非課税枠、相続における注意点をわかりやすく解説
相続財産は理解しているものの、「みなし相続財産」については詳しく知らないといった声も聞かれます。みなし相続財産とは、相続および遺贈などで受け取る民法上の相続財産ではなく、被相続人の死亡により受け取ることになった相続税法上の相続財産のことです。
本記事では、みなし相続財産に当たる財産の種類や非課税枠の使い方、その他の留意点を解説します。
目次
みなし相続財産とは
みなし相続財産とは、相続もしくは遺贈(遺言書による贈与)によって受け取る財産ではなく、亡くなった方(被相続人)の死亡をきっかけとして受け取る財産のことです。被相続人がかねてより持っていた財産ではなく、死亡後に相続人が受け取る「生命保険金」や「死亡退職金」などが税法上のみなし相続財産に当てはまります。
みなし相続財産は、死亡時の財産には受け取っていないものの、法律により経済的効果を持つ相続財産と同じ扱いを受けることから、相続税の計算に含めなければなりません。
※なお民法上では「特別受益」がみなし相続財産になりますが、今回はあくまで税法上のみなし相続財産について解説します。特別受益については、後ほど以下の記事もご覧ください。
みなし相続財産の種類
相続税の計算に加算しなければならない「みなし相続財産」の種類としては、以下のようなものが挙げられます。代表的なものとしては「生命保険金」と「死亡退職金」の2つです。
生命保険金(死亡保険金)
みなし相続財産として、取り扱われることが多い財産のひとつが「生命保険金(死亡保険金)」です。被相続人が加入していた生命保険によって、本人の死亡により遺族に支払われる保険金は、みなし相続財産とされ、相続税の課税対象となります。
ただし、みなし相続財産とされる生命保険金は、保険料を負担していたのが被相続人である保険金です。保険料を支払っていたのが被相続人ではなかった場合、課税されるのは相続税ではなくなります。
例えば、保険料の支払いを保険金の受取人が行っていた場合は「所得税」が、保険料の負担・被保険者・保険金の受取人がそれぞれ異なる場合は「贈与税」が課税されます。
死亡退職金
被相続人の死亡により勤務先から支払われる「死亡退職金」も、条件によりみなし相続財産とされます。その条件とは、死亡から3年以内に相続人が受け取った場合です。一方、死亡から3年が経過した後に受け取った退職金は、「所得税」が課税されます。
生命保険金・死亡退職金に関しては、どちらも非課税枠が用意されているため、一定の額を超えた場合に、その超えた分の金額が相続税の課税対象となります。非課税枠についての詳細は次の章で解説します。
生前に受けた贈与財産
厳密に言うとみなし相続財産ではありませんが、生前に被相続人から贈与があった場合、その条件によっては相続税の課税対象となります。
①被相続人の死亡前3年 ※ 以内に贈与によって取得した財産
相続、遺贈や相続時精算課税に係る贈与によって財産を取得した人が、被相続人が亡くなる日から3年 ※ 前までの期間に暦年課税による贈与を受けた場合、相続税の課税対象となります。贈与を受けた財産の評価額を、相続財産の評価額に加算して相続税の計算を行います。
※令和5年度税制改正により、生前贈与の相続財産への加算期間が死亡前3年から7年へ変更となることが決まりました。適用は【令和6年(2024年)1月1日以降】の贈与となります。
②相続時精算課税制度を適用して取得した財産
相続時精算課税制度とは、累計2,500万円までは贈与税が非課税となる代わりに、その贈与財産を相続時に相続税の課税財産として加算する制度です。もともと相続財産への加算を想定したうえで贈与税の非課税枠を拡大する制度ですので、贈与者が亡くなった際には、その贈与額を相続税の課税対象財産に加算します。
相続時精算課税制度については、下記の記事もご覧ください。
③教育資金、結婚・子育て資金贈与の非課税制度を利用した際の管理残額
贈与においては、税務面で優遇される様々な制度が用意されています。例えば、孫への教育資金の贈与や子への結婚資金の贈与など、用途を指定して贈与すると、条件を満たせば一定の額まで非課税になるという制度です。ただし、そのような制度を利用して贈与した金額が使いきれなかった場合、その残った贈与額(管理残額)は場合により相続税の対象となります。
教育資金贈与、結婚・子育て資金贈与については、以下の記事でも解説しています。
その他のみなし相続財産
その他にも、みなし相続財産とされる財産には以下のようなものがあります。厳密に言うと異なるものも含まれますが、これらは相続税の課税対象となる財産です。
●弔慰金
弔慰金(ちょういきん)とは、社員が亡くなった際に企業や団体が遺族に渡す金銭のことです。勤続年数などの条件により、企業独自で定めた金額が支給されます。基本的には非課税財産とされますが、一定の条件額(非課税枠)を超えた分は死亡退職金とみなされ、課税対象となります。
弔慰金について詳しくは以下の記事もご覧ください。
●定期金
定期金とは、被相続人が掛け金を支払い受取人が配偶者などの相続人である場合の個人年金などです。この場合もみなし相続財産とされ、死亡時に年金の給付が決定されていなくても相続税の課税対象となります。
●債務の免除
遺言により免除された債務も、みなし相続財産とされます。具体例として、死亡した被相続人に借りていた300万が遺言によって免除された場合などです。この免除された300万円に対して相続税が課税されます。
●信託受益権
信託銀行に遺産を預け、管理・運用を任せる「信託」を被相続人が行っており、遺言によってその利益を受ける場合は相続税の課税対象です。
●公共法人等から受ける利益
ある一定の法人に対して財産の遺贈が行われ、その法人と特別な関係を持つ者が特別な利益を受けた場合において、相続税が課税されます。課税はその受けた利益に対して行われます。
●特別縁故者への分与財産
被相続人の身の回りの世話をしていた知人など、家庭裁判所により「特別縁故者」として認められた者が受けた分与財産もみなし相続財産とされます。一方で、特別縁故者は被相続人の血族には該当しないため、相続税が2割加算されます。
●低額の譲り受け
遺言により、相続人が本来の時価よりも大幅に低い価格で財産を取得した場合、時価と売買価格の差額に対して相続税が課されます。例えば、時価1億円の土地を3,000万円で取得した場合、土地の3,000万円に加え、差額の7,000万円にも相続税かかるということです。
みなし相続財産の非課税枠
みなし相続財産として扱われることの多い生命保険金および死亡退職金には、財産の評価に非課税枠が設けられています。ここでは、生命保険金および死亡退職金それぞれの非課税枠の範囲や計算式、適用条件を解説します。
生命保険金の非課税枠
生命保険金の非課税枠は【500万円×法定相続人の数】で求められます。例えば、相続人が配偶者と息子の2人の場合、500万円×2という計算式が適用され、非課税枠は1,000万円となります。この場合、1,000万円を超過した分がみなし財産となり、相続税の課税対象です。
この非課税枠は、生命保険金の受取人が相続人または受遺者である場合に利用することができます。相続人または受遺者以外が受け取る場合は、非課税枠の対象外になります。
死亡退職金の非課税枠
生命保険金と同様に、死亡退職金にも非課税枠が設けられています。また、非課税枠の計算式も同様の【500万円 × 法定相続人の数】です。仮に法定相続人が配偶者と息子2人の場合、【500万円 × 3= 1,500万円】という計算式が成り立ち、1,500万円が非課税枠とされ、超過した分がみなし相続財産として相続税の課税対象です。
なお、それぞれの非課税枠の計算式で適用される法定相続人の考え方は、相続税の基礎控除額の計算時と同様です。具体的には、相続放棄した人がいてもその数を含め、また養子に関しては実子がいなければ2人まで、実子がいれば1人まで含めることができます。
みなし相続財産の留意点
ここまでみなし相続財産の内容について見てきましたが、その扱いについて留意しておきたい事項をまとめました。
遺産分割の対象にならない
みなし相続財産は相続税法により課税されるものの、民法上の相続財産ではないため、遺産分割の対象にはなりません。生命保険金などは、受取人が取得できる固有の財産となります。
しかし、みなし相続財産が遺産分割の対象外であることで、トラブルに発展するケースがあります。例えば法定相続人が2人いて、ひとりには不動産を遺し、もうひとりには生命保険金の受取人として指定した場合、生命保険の受取人とされた人物は、民法上の相続財産を取得していないため、生命保険金の受け取りだけでなく、不動産についての遺留分も請求できます。このように、民法上の相続財産とみなし相続財産のバランスが取れていないと不公平になることが多く、相続人の間でトラブルになりかねませんので注意しましょう。
相続放棄しても受け取ることができる
みなし相続財産は、相続放棄を行っても受け取ることが可能です。その理由は、みなし相続財産は本来、民法上の相続財産ではなく、被相続人の死亡をきっかけとして受け取る財産であるからです。このことから、受取人が相続放棄をしていても受取ることができ、また相続税の課税対象とはなりますが、遺産分割の対象とはなりません。
相続放棄した場合は非課税枠を使用できない
相続放棄をしてもみなし相続財産を受け取ることはできますが、生命保険金や死亡退職金を受け取る際に適用される非課税枠は使えません。前述したように、非課税枠の計算に適用する法定相続人の中には、相続放棄した人物も含みます。その一方で、非課税枠を利用できるのは、相続により財産を取得した相続人に限られます。
具体例として、相続人が配偶者と息子1人、生命保険金がそれぞれ3,000万円ずつ受け取れる状況下で息子が相続放棄をした場合、非課税枠は500万円×2人の計算式により1,000万円ですが、息子には適用されません。配偶者は相続放棄をしていないため3,000万円から1,000万円を引いた2,000万円に相続税が課税されますが、相続放棄した息子は3,000万円すべてに相続税が課されることになります。
他の相続人もみなし相続財産について知ることができる
みなし相続財産は、民法上の相続財産ではなく、受取人固有の財産です。受け取りの際に、他の法定相続人の同意を得る必要がないため、他の相続人には特に知られることなく、受け取りまで行われます。
しかし、相続税申告書にはみなし相続財産の金額を記載するため、それを見た他の法定相続人が知るというケースも考えられます。一方で非課税枠内におさまる場合などであれば、知られることはありません。
おわりに:みなし相続財産の判定は専門家に相談を
みなし相続財産の代表的なものは、生命保険金と死亡退職金です。非課税枠の範囲はどちらも「500万円×法定相続人の数」であり、超過した部分に相続税が課税されます。ただし、その判断は非常に難しいものがあります。相続財産に加算できていなかった財産があると、過少申告とみなされ税務調査やペナルティの対象となることもあります。「どれが相続税の対象になるのか」はプロに任せてしまったほうが安心です。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 社員税理士
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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