贈与税の基礎控除はいくら?暦年贈与と相続時精算課税
※令和5年度税制改正大綱によって、2024年1月1日以降の贈与より、相続時精算課税制度を選択した場合における基礎控除110万円の創設など、制度内容の見直しが決定されました。詳しくは【2023年最新情報】をご覧ください。(更新日:2022年12月19日)
国税庁では「個人から財産をもらった時にかかる税金」として、「贈与税」を設定しています。ここでいう「贈与」とは、個人から個人へと財産を無償で渡すことをいいますが、その贈与額が一定の範囲を超えると税金の支払い義務が生じるというわけです。
その一定の範囲のことを「基礎控除」といいます。この基礎控除の額を超えない限りは原則として贈与税を支払う必要はないことから、贈与を考えている方にとっては必須の知識といっていいでしょう。なお、基礎控除は贈与税に限るものではなく、相続税や所得税などにも設けられています。
では、贈与税の基礎控除額はいくらなのでしょうか?この記事では贈与税の基礎控除に関する考え方や税額の計算方法、また課税方式などについて解説いたします。
目次
贈与税の計算期間
贈与税においては財産を渡す人のことを「贈与者」、渡される人のことを「受贈者」と呼びます。一定の範囲を超えた贈与があった場合に贈与税を支払う義務が生じるのは、「受贈者」のほうです。
その贈与税ですが、贈与のたびに払わなければならないのでしょうか? それともある程度の期間にわたる贈与を計算して支払うのでしょうか? 贈与税ではその計算期間を明確に決めていて、また申告の期限もはっきりと定められています。以下、それぞれに見ていくことにしましょう。
1月1日から12月31日の分を計算
贈与税の課税対象となるのは、原則として1月1日から12月31日までの1年間に行われた贈与の合計額です。贈与ごとに課税対象となるのではなく、合計額に対して課税される点にご注意ください。こうした課税方式のことを「暦年課税」といいます。
合計額をもとに贈与税を算出していくわけですから、基本的には年に何度でも贈与があってもいいことになります。たとえば、父親・母親・祖父・祖母からそれぞれに贈与を受けてもかまいません。
「合計額」と「贈与ごと」を課税対象にすることの違いは何でしょうか?
もし贈与ごとに贈与税を計算することになると、後でふれる基礎控除額の範囲内で贈与をくり返すことにより、課税を回避できてしまいます。そうなると贈与税自体がまず発生しなくなるので、1年間という期間が設定されているわけです。
申告は翌年3月15日までに
1年間の贈与額が基礎控除額を超えた場合は、贈与税の支払い義務が生じます。その時は自分が住んでいる地域を管轄している税務署に申告をし、税金を納付しなければなりません。なお、申告・納付先は贈与者ではなく受贈者が住む地域の税務署であることに注意をしましょう。
自分の住む地域を管轄する税務署は国税庁のホームページから調べることができます。
申告・納付の期限ですが、贈与を受けた年の翌年2月1日から3月15日までの期間です。3月15日が土日祝日の場合は次の平日が期限となります。
もし期限を過ぎてしまったら「無申告加算税」や「延滞税」などのペナルティを科せられることがあるので、必ず守るようにしましょう。なお、贈与税は現金による一括納付が原則です。それが難しい場合は分割して納めることもできます(税務署の承認が必要です)。
贈与税の基礎控除
贈与税の計算期間と申告・納付期限がわかったところで、次に贈与税の「基礎控除」について理解を深めていくことにしましょう。
基礎控除とは税金を算出する際に課税対象となるもともとの金額から、無条件で差し引くことのできる非課税枠のことです。贈与税に限らず、相続税や所得税にも設けられており、この基礎控除の額が大きければ大きいほど税負担は小さくなるわけです。
贈与税の基礎控除は年110万円
贈与税の基礎控除額は「110万円」です。贈与税は1年間の贈与の合計額を対象として算出しますから、この基礎控除額も1年ごとに使うことができます。
たとえば、ある年の贈与の合計額が200万円だったとします。贈与税を算出するには、まずこの200万円から基礎控除額110万円を差し引きます。【200万円−110万円】で差し引いた残りの「90万円」に対して、贈与税がかかってくるというわけです。
もし1年間の贈与額が100万円だったらどうなるのでしょうか? この場合は基礎控除額の範囲内に収まるので贈与税は発生しません。申告・納付の手続きも不要ということになります。
基礎控除は贈与を受ける人がもっている枠
110万円の基礎控除を使えるのは贈与者ではなく、受贈者です。ここを間違えると払わなくてもいい税金を払ってしまうことになりかねませんので、気を付けたいものです。
たとえば、1年間に父親と母親から100万円ずつの贈与を受けたとします。それぞれの贈与額は基礎控除額以下ですから「贈与税の申告・納付の必要はない」と考えてしまう方もいるかもしれません。
しかし、先にもふれたように贈与税は1年間の合計額から算出し、基礎控除を使えるのは受贈者ですから、この場合は200万円から110万円を差し引くことになるわけです。つまり差し引き90万円となり、贈与税の支払い義務が生じます。このことに気づかず申告・納付を怠っていると、税務署から連絡が入ることになります。
なお、このケースでは父親から100万円の贈与を受けた次の年にあらためて母親から贈与を受ければ、贈与税を支払わなくて済むことになります。基礎控除額は毎年使うことができるからです。
贈与税の基礎控除と計算方法
では、ここからは具体的に贈与税の計算方法を見ていくことにしましょう。年間の贈与額に対して基礎控除を使うことで、どれくらいの贈与税になるのかが簡単に計算できるようになります。
贈与税の計算そのものはシンプルで、決して難しいものではありません。なお、その算出には次の計算式を用います。
【贈与税額=(贈与された額−110万円)×税率−控除額】
贈与総額から基礎控除を引く
贈与税を算出するにあたってまず行うことは、年間の贈与総額から基礎控除額を差し引くことです。その差し引いた額がプラスであれば贈与税がかかり、マイナスもしくはゼロであれば贈与税はかかりません。贈与税の基礎控除額は110万円ですから、110万円以内なら贈与税は払わなくていいということです。
【110万円<贈与総額→贈与税がかかる】
【110万円≧贈与総額→贈与税がかからない】
税率を掛けて贈与税を算出する
贈与総額から基礎控除額を差し引いてプラスになった場合は、その額に応じた税率と控除額(基礎控除額とは別のものです)を適用し、贈与税を算出します。
贈与税の税率には「一般税率」と「特例税率」がありますが、ここでは後者を例に出します。なお、特例税率とは両親や祖父母など直系尊属から成人(20歳以上)の子や孫に対して贈与が行われた時に適用される税率のことです。
特例税率
基礎控除後の課税価格 | 税率 | 控除額 |
---|---|---|
200万円以下 | 10% | 0円 |
400万円以下 | 15% | 10万円 |
600万円以下 | 20% | 30万円 |
1,000万円以下 | 30% | 90万円 |
1,500万円以下 | 40% | 190万円 |
3,000万円以下 | 45% | 265万円 |
4,500万円以下 | 50% | 415万円 |
4,500万円超 | 55% | 640万円 |
具体的な数字を使って計算してみましょう。親から成人の子に500万円の贈与が行われたとします。この場合、課税価格は基礎控除額の110万円を差し引いて390万円となります。 390万円に対する税率は15%、控除額は10万円です(上記の表を参照)。これらの数字をもとに計算をすると贈与税額が算出できます。
【(500万円−110万円)×15%−10万円=48万5,000円(贈与税額)】
すなわち500万円の贈与に対する贈与税額は48万5,000円ということになります。
相続時精算課税制度の場合の特別控除額
贈与税には年110万円の基礎控除ができる暦年課税以外に、「相続時精算課税」という課税方式もあります。この相続時精算課税の場合、特別控除額は2,500万円です。
暦年課税よりも控除額が大きいので、ついこちらの課税方式を選択したいと思いがちですが、暦年課税と相続時精算課税ではルールが異なります。その違いを解説していきましょう。
相続時精算課税制度とは
相続時精算課税は贈与総額の合計が2,500万円以内なら贈与税がかからないという制度です。2,500万円を超えた場合は、一律20%の税率が課せられます。
相続時精算課税と暦年課税の大きな違いとしては、相続時精算課税の贈与はのちに相続が発生した時に相続財産として加算される点が挙げられます。つまり、贈与時の控除額は大きいものの、それは一時的なものであり、いずれは課税されることになるわけです。そのため相続時精算課税は「相続時までの納税の先送り」と呼ばれ、基本的に節税対策にはなりません。なお、あらかじめ払っていた贈与税は相続税で精算されます。
もし、相続時に確実に値上がりが考えられる財産(とくに不動産)があれば、相続時精算課税を選択すると有利になります。相続が発生した時に加算されるのは贈与時の評価額だからです。
精算課税制度を利用している場合の特別控除
相続時精算課税は暦年課税とは違って1年間ごとではなく、累計額で計算します。贈与総額が2,500万円を超えた時点で贈与税を算出し、納付をします。たとえば贈与総額が3,000万円の場合であれば、特別控除額を差し引きした500万円が課税対象となり、その20%の100万円が贈与税ということになります。
なお、この制度を使うには、贈与者が60歳以上の両親・祖父母であり、受贈者が20歳以上の子・孫であることが条件です(それぞれ贈与があった年の1月1日時点において)。さらに、贈与税の申告も必要となってきます。たとえ特別控除額の範囲内であっても申告はしてください。また、一度相続時精算課税を選択すると暦年課税は使えなくなるので、その点でも注意が必要です(ただし贈与者が異なれば、暦年課税は使えます)。
【2023年最新情報】相続時精算課税制度の見直し
2022年12月16日に発表された「令和5年度 税制改正大綱」によって、相続時精算課税制度を選択した場合における制度の内容が以下の通り見直されることが決まりました。
①相続時精算課税の特別控除額2,500万円とは別に、基礎控除110万円が創設
②相続までに贈与財産が災害被害を受けた場合、相続時の財産評価額は再評価となる
適用時期は【令和6年(2024年)1月1日以降】です。
この見直しにより、より多くの人が相続時精算課税制度を活用しやすくなるのではないかと思われます。
詳細は下記の記事をご覧ください。
おわりに:基礎控除は原則110万円、それを超えたら申告が必要
個人が個人から無償で財産をもらった時には「贈与税」がかかります。ただし、すべての贈与において課税されるのではなく、一定の額を超える贈与が対象となります。
その一定の額のことを「基礎控除額」といい、贈与税の場合は「110万円」と決められています。贈与を行う場合は110万円以下に収まるようにすれば、原則として贈与税を支払わなくていいわけです。なお、この基礎控除額は毎年使えます。
もし年間の贈与額が110万円を超えた場合は税務署に対して申告・納付の手続きをしなければなりません。贈与を考えている方は、この基礎控除額を意識した上で行うことが大切だといえるでしょう。
もし贈与税に関して不安や心配を感じているなら、実績のある税理士に相談してみてはいかがでしょうか。専門知識の豊富な税理士は、贈与税の計算から手続き、効果の大きい節税対策などさまざま面でのサポートを提供しています。また、相続税のことも含めた節税アドバイスにも期待ができます。より効果が大きく、安心できる贈与を考えている方であれば税理士を味方に付けることが最も近道だといえるでしょう。
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陽⽥ 賢⼀税理士法人レガシィ 代表社員税理士 パートナー
企業税務に対する⾃⼰研鑽のため税理⼠資格の勉強を始めたところ、いつの間にか税理⼠として働きたい気持ちを抑えられなくなり38歳でこの業界に⾶び込みました。そして今、相続を究めることを⽬標に残りの⼈⽣を全うしようと考えております。先⼈の⽣き⽅や思いを承継するお⼿伝いを誠⼼誠意努めさせていただくために・・
武田 利之税理士法人レガシィ 社員税理士
相続はご他界された方の人生の総決算であると同時にご遺族様の今後の人生の大きな転機となります。ご遺族様の幸せを心から考えてお手伝いをすることを心掛けております。
<総監修 天野 隆、天野 大輔税理士法人レガシィ 代表>
<総監修 天野 隆、天野 大輔>税理士法人レガシィ 代表
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